【裾野伝説シリーズ】古狐たいじ

古狐たいじ
古狐たいじ

むかし伊豆島田と堰原(せぎばら)の境を富士面といった。
ここは伊豆と駿河を結ぶわき道がとおっていて、昼まはかなりの人どおりがあった。

けれども木が繁っていて昼でもうす暗いところなので、夜になるとほとんど人は通らなかった。

ある夜、伊豆島田の若者がとなり村へ行っての帰りに、富士面をとおりかかった。
すると林の中から美しい娘が灯りをもってあらわれた。
「ひえっ、こんな淋しいところに、女がいるなんて、いったいお前さんはだれだい」
かれはあわてて声をかけた。
だが娘はにっこり笑っただけで答えようともせず、だんだん若者に近づいてきた。

男はあまりのことで、腰をぬかさんばかりにおどろき、やっとのことでわが家へと走りかえった。

そうして、その夜のできごとを人びとに話したが、だれも信じなかった。
なにか元気な若者がいて、「ようし、ほんとかどうか、このおれが確かめてやるぜ」とって、
つぎの夜、ころあいを見はからって富士面へとでかけていった。
やがて日も暮れて、あたりは静まりかえり、星空に林の影だけが浮かんで見えた。
するとまもなく、うわさの女があらわれた。
青い着物に花の模様があって、まっ赤な襟元に白い顔がひきたって、その艶やかさといったら、いいようがなかった。

かれは気が引き込まれるかと思ったが、娘はちらっと彼の方を向いただけで、そのまま林の奥へと姿を消した。翌日、男はさっそく村人たちに話した。「あんな美人はこの辺りにいねえな、きっと都から落ちてきた人だろうよ」

それからというもの、村では富士面の美人の噂でもちきりになった。

なかには、わざわざ娘を見にくる者まででてくるようになった。
また昼間の仕事をほおりだして林の中をあちらこちら歩きだし、娘の家をさがす者もいた。けれど、いくらさがしてもそれらしい家は見あたらなかった。

ところが娘は夜ごときまった時間になると、同じような姿で手に灯りをさげ、もの思いにふけるかのように林の中を歩いては、いつしか消えていった。

人びとのなかには、
「ことによると、あの娘は狐の化け物ではないかのう」
「そうかも知れねえ、いくら探しても家があるわけでなし、夜に女がでてくるなんてただごとでなかろう」と、言い出す者がいて、それがまた噂となって村中へと広まっていった。
それからというもの、みんな薄気味悪くて、昼間でも富士面を通れなくなってきた。
なかには水窪へ行くのに、わざわざ南一色のほうをまわる者もいた。
また畑仕事をしていても、夕方前には切り上げて帰るといった始末であった。

そこで村人たちは相談して、この化け狐を退治しようということにした。
ことに力自慢の者を集めて、夕暮れをまった。
めいめい、鎌や竹槍・棒などをてにして草むらに身をひそめた。
やがて夜を迎えるころ、白っぽい着物をまとった娘が灯りをもちながらあらわれた。
一同は息をひそめていたが、娘が近づくのをみると、
「そうれ、いまだ」
と、掛け声とともにいっせに娘をめがけて襲いかかった。

しかし、どうしたことか娘を棒でなぐっても、槍でついても手ごたえがなかった。
まるでまぼろしのようにふんわり身をかわし、人びとをあしらっていた。

ふと足早にのがれたかと思うと、一同をあざけるかのように笑って、
そのまま林の奥へと姿を消してしまった。

あくる夜は、遠まきにして娘をつかまえるように計画をかえてみた。
村人たちは息をこらして娘に近づき、いざ取り押さえようとすると、娘はふわっと空に浮いてしまった。
みんなあっけにとられているうちに、遠ざかっていった。
そこで人々はふたたび集まって、それぞれ知恵をしぼった。
「あんなに逃げ足がはやくては、鉄砲ででもなければ仕留められんが」
「それも、よっぽど腕利きでないとのう」
「うん、そうだ、富沢の市朗平なら撃てるかも知れん」
一同は、市朗平のほかにあの化け物をを仕留める者はいないであろう、
ということで彼に頼むことにした。

みんなの話を聞きいれて、市朗平はさっそく夜を見はからって富士面へとでかけていった。
やがて時がたつと、遠くに灯りが見えた。

かれは木陰に身を隠して、娘が近づくのを待った。
彼女は市朗平のほうへやってくると、さもかれが見えるかのようにして、にこりと笑って通り過ぎようとした。
「いまだ」
彼は狙いを定めて、引き金をひいた。たしかに手ごたえがあったと思った。
ところがどうしたことか娘の姿もなく、傷ついたあともみえなかった。
「なんど、化け狐め、いったいお前の正体はなんだ」
市朗平は歯ぎしりして悔しがった。
「ようし、明日は、目にものみせてくれるぞ」
といいながら、つぎの夜をまった。

また、待ちかまえて、ねらい撃ちをしたが、相変わらず娘の姿はふわっと浮きあがったかと思うと、
そのまま遠ざかっていった。

市朗平は、彼が撃った時の光景をじっと見つめていたが、ふと妙なことに気付いた。
娘の体ふわふわゆれるのに、手にさげている灯りだけは揺れなかったのである。
そこで三日目の夜、かれは十分に娘を近づけておいて、こんどは灯りを狙って撃った。
それと同時に、
「ぎゃあ」
という獣の悲鳴が聞こえた。
彼は倒れこんだ娘の方へかけよってみると、そこに古狐の死体がころがっていた。
このことを知った村人たちは大喜びであった。
そうして市朗平の勇気と知恵に感心し、かわるがわるお礼にやってきた。

市朗平は古狐の首を切り落として、家の庭のすみに埋めてやった。
その後そこに小さな祠をたててねんごろに祀ってやった。

いまでも子孫である渡辺家には、その祠があっておまつりしているという。

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